よき時代って言うけど、その受け方は人次第ですよね。震災前の風景とか大切なことですが、それに縛られてるような雰囲気は在りますね。
3月に起こった東日本大震災。一部ではあるが、テレビ等で現在の被災地の様子を目にする機会がある。今は復興に向けて日本が一丸となりながら、前を向いて歩いていくしかない。
ただ、震災前のすべてをリセットするべきなのだろうか? この一冊を見た時、本当に胸にグッと迫るものがあった。10月14日から一般発売されている「みやぎの思い出写真集『海と 風と 町と』」には、震災で津波被害を受けた宮城県沿岸部の“被災前”が記録されている。当時の自然や町並みなどの風景を収めた、写真集である。
この一冊を制作したきっかけについて、発売元である「南北社」の矢吹さんに話を伺った。
「当社に石巻出身のスタッフがいるのですが、被災地に出入りする中、地元の方々の『きれいだった頃の風景をもう一度見たい』という言葉を耳にしたそうなんです」
こうした声を受け、5月上旬に「みやぎの思い出写真集制作員会」は発足している。
そして、掲載されている写真について。この中の一部は宮城県の15の市町村から提供されたものだが、それ以外の大半は5月下旬~7月29日までの期間に一般に向けて募集をした結果、寄せられた写真たちである。計3,195点の写真が集まり、その中から選定された330点が写真集に掲載された。
「一般の方々から募集したのですが、その中にはプロのカメラマンの方からの応募もありました」(矢吹さん)
こうして完成となった、今回の一冊。10月9日から仮設住宅で生活している方々を対象に無料で配布されており、最終的には3万2000部を配布する予定だそう。
「元々、この写真集は『被災された方々に無料でお届けしたい』という思いを大前提に制作された物です」(矢吹さん)
だが、一般発売(10000部)も行われている。宮城県内の主な書店とローソン各店、もしくは専用サイトでの購入が可能なのだが、その価格が良心的だ。写真集としては破格の525円(税込み)である。
その辺りについても、ご説明させていただきたい
まず、写真集を無償で配布するために必要な費用は、企業及び個人からの協賛金を募って約80%が確保されている。それ以外の不足分は、一旦は制作委員会が負担する。
「4000冊が売れると収益が出るので、その分は来年4月に宮城県に寄付いたします」(矢吹さん)
ちなみに協賛については数多くの企業が集まった。中でも、石巻に工場がある日本製紙からの助けが大きかったようだ。写真集制作に必要な“紙”を提供してくれたのが、同社だったのだ。
こうした数々の力が結集し、この写真集は形となった。
私も写真集を見させていただいたのだが、本当に美しい風景ばかりだ。仕事に精を出す人々の活気あふれる光景。大きくて美しい、自然の風景。祭りで盛り上がる、ハレの日の人々の様子。のどかで何てことないのだが、ホッとさせてくれる町並み。
正直、こんな風に言葉で表現しようとしてもしきれない。本当に心の底から被災地の方々に見てもらいたい、そんな写真ばかりが掲載されていた。
この写真集を目にした被災者の方々からの反響は、以下である。
「昔のきれいな写真を見て、元気が出た」
「自分の家が写った写真を発見し、思わず涙しました。一生の宝物にします」
「こういうのが欲しかったんです。親戚にも送ってあげたい」
「ページをめくるごとに、懐かしい思い出がよみがえってきます」
仙台市内の書店では“今週売れている本”の第1位になったこともあるそうだ。
3月11日、一瞬にして失われてしまった風景。再び会うことはできないが、いつまでも忘れることのできない風景たち。
「あの日のふるさとに帰りたい」という思いが、未来につながるのではないだろうか。