ニュースでも自転車で駆け抜けるおよそご老体とは結びつかないパワフルなじいさん・ばあさんなんて良く見る。だから今更メガホン程度では驚きもしないが、改めてみるとそうでもないのかもしれない。
映画が国民的娯楽のひとつとなっている韓国では、「ソウル国際女性映画際」「ソウル環境映画祭」「ピンク映画祭(日本のピンク映画を扱う)」など、個性的な映画祭が次々と開催されているが、この秋、その名も「ソウル老人映画祭」という、またもや一風変わったフィルムフェスが幕を開けた。どれだけ渋い催しなのか確認するため、筆者も現場を訪れた。
9月30日から3日間行われた「ソウル老人映画祭」は、ソウル老人福祉センターが主催し、今年で4年目を迎えた企画。興味深いことに、韓国のお年寄りが製作した自主映画を積極的に紹介しており、今年度上映される37編の作品のうち、15編は高齢者が撮ったものだという。
もともと高齢者を対象に、生涯教育の一環としてメディア作品制作をレクチャーしたことが始まり。完成した作品を発表する場として映画祭を企画したところ反響が大きく、第2回目から若い監督による高齢者をテーマにした作品も扱うようになり、世代間の疎通もある映画祭となった。
最も大きい規模の映画館で行われた今年度は、反応も大きく、開幕式には700席が売り切れとなったとか。
お年寄りによる作品はそれぞれ短編で、テーマは特に決まっていない。日常生活をとらえたドキュメント作品から、創作ストーリーによるフィクション作品、若手人気バンド「チャン・ギハと顔たち」のミュージックビデオまで様々。何と80歳を超える人も作品を出品しており、監督するだけでなく、撮影からパソコンによる編集まで高齢者が行ったというから凄い。
「技術面では若者よりも劣りますが、これまで生きてきた世界観がこめられた、哲学的な内容も多い、円熟した作品ばかりです。何より、最後まで作品を作り上げようとする、粘りと情熱には恐れ入りました」と、映画祭担当者は話す。
筆者が訪れた回は、観客の半数以上がお年寄りだった。普通の映画館と違い、上映中に観客同士の話し声がよく聞こえたのは、昔ながらの鑑賞スタイルといったところか。
鑑賞した5本の短編のうち、3本が高齢者による作品で、地下鉄で出会った女性に一目惚れする物語、サハリン同胞の帰国後の生活を撮影したノンフィクション、恋人未満の男女が旅行を通して親密になっていく物語と、お年寄りの恋を描いた作品がふたつもあり、大変興味深く鑑賞することができた。
確かに、一般的な映画と比べると、カメラがぶれたり、画面にスタッフが映りこんでいたり、場面が変わるのにページをめくるような編集がなされていたりと、手段の部分ではスキだらけのように感じたが、それだけに今の作品にはない新鮮さもあり、また制作する人の思いや、制作への瑞々しい喜びがダイレクトに作品に現れており、心が洗われるような気持ちになった。
何より、お年寄りの視線で世界を見るような感覚がとても良かった。正直、見知らぬ家族のホームビデオを見るような油断した気持ちで足を運んだのだが、普段はあまり考えない、自分の老後のことなどを深く考えさせられ、貴重な時間を過ごすことができた。
この映画祭に参加して、映画をつくる機会が、もっと広い人たちに与えられるといいと思った。お年寄りによる映画だけの、カンヌみたいな国際映画祭が生まれれば素敵なのに。今後の「ソウル老人映画祭」の発展に、ぜひ期待したいところである。