時代背景から良く判らない生き物の記述が在ったりします。そのその人物の持ち味が出されすぎたために化け物のような風貌の動物が居たり、その生態系に疑問を持ったりだ。
北斎が、広重が、円山応挙が。それから近年展覧会やテレビの特集番組などで大人気の伊藤若沖、そして歌川国芳。
そんな江戸期に活躍した有名画家・絵師たちが描いた動物画だけを一冊に収録したのが、『大江戸カルチャーブックス 動物奇想天外 江戸の動物百態』(青幻舎)という本(同じようなタイトルのテレビ番組もありましたが)。
浮世絵の登場や海外の絵画の影響も含めて、個性あふれる流派や画風が爆発的に広がっていったというこの時代、それぞれの画家の個性的な表現のもと、ウサギが、ネズミが、サルが、牛が。そして日常風景にとけ込むイヌやネコの姿が。今とほぼ変わらないごくごく見慣れた動物たちなのに、ページをめくるたびに出てくる息づかいのようなものに、驚きや発見の連続だ。
そこにあるのは、一枚の絵で表現される奇想の数々。
たとえば若沖の「白象群獣図」。1センチ四方ほどのマス目約6000個で描かれた象や麒麟。いわゆるモザイクアートのように白象が浮かび上がってくる。さらにこの手法を発展させた「樹花鳥獣図屏風」の、極彩色に彩られた動物たちと花や樹木の艶やかさときたら、もう。
葛飾北斎の「北斎漫画」に登場する動物たちや扇に描かれたナマコ(!)、歌川広重の描く、超ドアップの馬の脚とその向こうにのぞく四ツ谷内藤新宿の宿場町の構図の大胆さ。そして歌川国芳の絵に登場するネコの粋な表情。
国芳のネコのように、擬人化された動物の姿や動きのおかしみもまた、魅力的だ。擬人化された十二支や、エノコログサのような雑草を得物のように振りかざしながら合戦を繰り広げるカマキリやコオロギ、猫の襲来にあわてふためく金魚たち。みんな、生き生きしすぎです。
ページが進むにつれ、奇想天外度はさらに上昇。当時珍獣だった存在の、ゾウやラクダ登場の衝撃も、描かれた絵からダイレクトに伝わってくる。さらにはオランダからやってきた動物図鑑をもとに、実物を見ずに己の画風で描き出されたライオン。
そしてサイやキリン(麒麟じゃなくて)にオランウータン。当時の日本の人々がまだ見ぬ動物たちが、絵師の筆によって次々紹介されていく。そして、カッパや人魚といったUMAまで!
動物をモチーフにしたものばかりとはいえ、それぞれの画家の有名な絵も数多く収録されているので、入門用の一冊としても、役立ちそう。
絵で巡る江戸の動物園。その表現の多彩さは、本物を超えているかもしれません。