幻・・・すばらしい、なにかプレミア感やら希少価値が貧欲な人間を惑わし相対価値でしか図れない異常事態を巻き起こすこと請け合いだ。それでも見たい知りたい、それが幻たる由縁だろう。
年に1度だけ水が流れる「幻の滝」として知られる長野県木島平村の樽滝(たるだき)が5月8日に姿を現し、多くの観光客でにぎわったというニュースを見た。滝の美しい流れを眺めつつ、「幻の」という言葉について思いを馳せた。
「幻」は、いつの世の中でも人類を魅了してやまない魅惑のキーワードである。「幻の酒」、「幻の温泉旅館」など、どんな名詞でも「幻の」という枕詞がつくだけで、なんだかゴージャスな雰囲気を醸しだしてしまう。
そんな「幻」に魅了された筆者は、世間ではあまり知られていない「幻のナントカ」をいろいろ調べてみた。
まず紹介したいのが、「幻のトンネル」。地下鉄建設の計画変更により、途中まで作られたものの使われていないトンネルが日本にはいくつかあるらしく、それを幻のトンネルと呼ぶ。例えば、大阪市営地下鉄梅田駅には昔、別路線乗り入れのために堀ったトンネルがあったそうだが、路線計画が変更になり、結局そのトンネルは梅田駅の拡張工事のために使われたそうだ。路線変更の計画だけでなく、「そもそも、何かの目的で秘密に作られたトンネルが日本にはたくさんあるのでは?」という都市伝説的な噂もあり、『交渉人 真下正義』など、幻のトンネルを物語のキーワードとした映画もある(作中では別の名称で呼ばれている)。
その後、調査を続けていると、「幻の戦国武将」という言葉が目にとまった。ただでさえ明日の生死が分からない戦国武将がさらに幻になってしまったら、これはもう諸行無常どころの騒ぎではないではないか。
「幻の戦国武将」として知られている武将に、応仁の乱から歴史に登場し、飛騨地方の白川郷で勢力を誇っていた内島(うちがしま)氏理(うじまさ)がいる。内島氏は帰雲城(かえりぐもじょう)という名前の城を本拠地とし、近隣の武将と勢力争いを重ねていたが、1585年11月に起こったとされる天正大地震によって城郭が崩壊し、氏理は家族や家臣とともに山崩れ、「天災により一族郎党一夜にして全滅」という前代未聞の事態に巻き込まれた、悲劇かつ幻の武将であるらしい。
内島氏だけでなく、今となっては帰雲城の在り処も定かではないらしい。
内島氏理については黒沢英昭氏の著作「飛騨白川郷に雄飛した幻の戦国武将」に詳しい解説があるらしいが、この書籍自体が絶版になっており、武将、城に加えて書籍も幻という、幻3状態となっている。
また、「幻のホームラン」というのもあるらしい。フェンス越えのホームランを打ちながらも、それが正式に認められなかったとき、ホームランは幻になるのだそうだ。1949年から現在までに25以上もの幻のホームランがあり、幻の割には結構多い。達成者には例えば長嶋茂雄氏がいる。ホームランを打ちながらも、一塁ベースを踏むのを忘れてしまったためにホームランを取り消されたという、長嶋氏らしさを感じさせるエピソードが残っている。また、SHINJOは幻のホームランを2回達成しており、記録より記憶に残る男っぷりをこんなところでも発揮している。
長いようで短い人生、ひとつくらいは自分だけの「幻」を持ってみたいものだ。