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2011年7月3日日曜日

“ばばぁ”達がドーバー海峡に挑む、ドキュメント映画

御婦人達のたわごと・・・なんてことはない。高齢の壁を突き抜けるド級の奮闘。前段階にもっとまともな挑戦はなかったのかと突っ込みは恐らく愚問。ストレスがそうさせたのか、人生に栄光を飾るのかは分からないがともかく凄まじい。
 
個人的に、大好きな言葉がある。「月に手を伸ばせ。たとえ届かなくても」という、ジョー・ストラマー(パンクバンド「クラッシュ」のヴォーカル)による名言。
夢や目標に向かっての一歩を躊躇してしまいそうな時、私はこの言葉をいつも思い出してきた。

そして、この映画が凄い。もう、手を伸ばしまくり。今年の6月より上映されている『ドーバーばばぁ』は、ドーバー海峡横断リレーに挑む女性6人を追ったドキュメント映画。
問題は、その6人たちの年齢だ。下は54歳で上は67歳という、まさに“ばばぁ”たちなのである。

劇中では、親の介護や家族の世話という日常を抱えた彼女らが、「ドーバー海峡」という非日常にチャレンジする姿を2年間に亘って追いかけている。
この内容には、正直惹かれた。その2年に、一体どんな事があったのか。興味深い。そこで6月某日、実際に観に行ってきました。

映画がスタートすると、まずはメンバーの日常やチーム全体の練習風景が紹介される。どうやら、ドーバーに挑む6人のチーム名は「織姫」というらしい。
しかし、その場面でのナレーションがひどい。
「ちょっと老けた“織姫”たちの前に立ち塞がるのは……」
夢を追いかけるのに、年齢は関係ないということか。

ちなみに、チーム「織姫」がドーバー海峡に挑戦するのは9月。そして、この時期のドーバー海峡の水温は15~16℃。その温度に合わせた環境で、国内での練習も行われている。
これが、過酷なのだ。ある者は海の冷たさで筋肉が動かなくなってしまったり、またある者は寒さのせいで発作が起こってしまったり……。練習後は、這いつくばりながら海から上がるメンバー達。

しかも、チームを構成しているのは女性ばかり。揉め事は避けられない。
ドーバー海峡に挑む半年前、ある者がチームへの相談無しに股関節の手術を受けてしまった。結果、他のチームメイトから「何故、言わなかったんだ」と、不満が爆発! 手術して、本番に間に合わす事ができるのか? そんな不安による不協和音が発生。
 
 
話し合いの場では、糾弾されたメンバーによる涙ながらの謝罪も……。
ドーバー海峡横断リレーに挑むには、非常に強固な絆が必要。チーム間でのしこりがあってはならない。

そんな紆余曲折を経て、ようやく現地に出発するメンバー達。しかし、現地でも苦難は待ち受けており……。

これ以上はネタばれになってしまうので、興味のある方は映画を是非ご覧頂きたい。ただ一つだけ言っておきたいのは、今作のテーマはドーバー海峡へのチャレンジだけではないという事。
皆、様々な問題を抱えながら必死に日常を生きている。たとえば、親の介護。たとえば、家族や職場との軋轢。自分がドーバーに挑戦している間(3週間)、それらの問題はどうなるのか? 周囲の協力を得ながら、「ドーバー海峡」という非日常にチャレンジする“ばばぁ”達。この辺りも、大きな見どころの一つです。

そして、チーム「織姫」の面々は語っている。ドーバー海峡横断リレーに挑むに当たり、最も重要な事。それは単純で、しかし非常に困難でもある。
「いろんな問題がありましたが、『行きたい!』という気持ちだと思います」
「人を気遣う気持ちがないと、ああいう極限状態でチームを組むことはできません」
言うは易し、行うは難し。非日常の世界で、これを達成することがどんなに難しいか。それは、この映画を観ればわかります。

そして『ドーバーばばぁ』の監督である中島久枝さんに、この作品に対する思いを語っていただいた。
「ドーバー海峡横断は、対岸に泳ぎ着くことだけが目的です。それには皆さんの協力が必要。また、ドーバーの厳しい自然にも身を任さなければいけません。我々の人生も、“死”という対岸に向かって泳いでいます。そのためには、いろんな方の協力があり、自然の災害にも身を任せながら対岸まで泳ぎきらなければなりません」(中島監督)
自分に重ね合わせながら、観ていただきたい。

最後に、劇中で最も私の心を震わせたメンバーによる一言がこれ。
 
「『なんで、親を介護してるのにドーバー海峡?』なんて聞かれるんだけど、介護してるからこそ行きたかった」
様々な局面で、背中を押してくれる言葉ではないだろうか。人生に投影すべき作品でした。