正直センスを疑うものがあるが、機能性を考慮するとあながちおかしくないものがある。無骨なものも時間が経つに連れて誰も気にならなくなるから不思議だ。勿論役立つ前提があるが。
お酒って飲んで味わうだけでなく、雰囲気を楽しむものでもあると思う。飲み交わす相手であったり、場所であったり……。
要するに、お酒そのもの以外のオプション的要素が大事。というか、個人的にはそれが全てだ。
中でも、顕著だと思うのがワイン。これこそ、雰囲気を楽しみたいお酒ナンバー1。アルコールに酔っているんだか、雰囲気に酔っているんだか、自分でもわからない。
そして、こんなワイングラスでもっと酔わせてもらいたい。共栄デザインが製作した『glass tank(グラスタンク)』は、“タンクがあるワイングラス”。
見ていただきたい。明らかに初めて目にするフォルム。飲みにくそうだ。でも、面白い。そこで、同社に伺ってみた。なぜ、こんなグラスを作った?
「食器洗いをしている時に思いつきました。水の中にあるグラスを逆さにして、水面からグッと持ち上げると、グラス内にある水が落ちてこない現象ってありますよね? その状態で中に空気が入ると、水がボコッと落ちてくるという……。あの原理を持つグラスを作ってみたいと考えたんです」(共栄デザイン・岡本光市デザイナー)
そこから、独自でグラスの角度や深さを研究。結果的に、この唯一無二のワイングラスが出来上がった。
でも、何度も言うが飲みにくそうだ。……どうやって飲めばいいんだ?
「斜めになっているグラスの部分に口をつけて傾けます。するとタンクの部分に空気が送られ、ワインが送り込まれてきます」(岡本さん)
このグラスを平らにしていると、タンク部分はワイン自体で蓋をされている。水圧と大気圧のバランスで、こぼれ落ちてこないのだ。しかし斜めに傾けると、口にワインが運ばれるからタンクの入り口に穴が開く。そこに空気が入った分だけ、ワインがポコポコと流れてくるという按配。
何とも、科学的なワイングラスじゃないか。
じゃあ、逆に注ぎ方は?
「タンク部分を横にして、ワイングラスを縦にすると、タンクにワインがポコポコと溜まっていきます」(岡本さん)
そんな『glass tank』、6月にサンフランシスコのモダンアートミュージアム「SFMOMA」のパーマネントコレクションに選出されたという。
アート作品としても評価されているのだ。見てるだけでウットリすると、世界的に認められた。
だからこそ、食指が伸びるのはこのような方々。
「主に、ワイングラスを収集するコレクターの方が購入されることが多いです」(岡本さん)
ただ「これで飲んでみたい!」という人にも、当然オススメである。購入は、同社のホームページより。価格は28,500円。
「このワイングラスには、“飲みやすさ”や“便利さ”は求められていないと思うんです。それ以外にある、“楽しさ”を味わってもらいたいという物になりました」(岡本さん)
ハッキリと、ぶっちゃけていただいた。“飲みやすさ”ではなく、“楽しさ”重視のグラス。
ただ、実用性に関してもないがしろにできない。だからこそ、これだけは注意です。空気がタンク内で押し出されて溢れちゃうから、炭酸飲料には向いてません。